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■山からの声・責任と連携〜松本茂さん(京都森林作業体験セミナー)

◆日時:平成14年2月13日(土)19:00
◆場所:京都府
◆お話:京都森林作業体験セミナー 松本さん
◆聞き手:田村(京都府林務課)、下村(森林再生支援センター)
 

 

松本さん

■会の概要

田村・下村:
今日はお疲れのところすみません。よろしくお願いします。
松本:
いえ、こちらこそよろしくお願いします。
田村:
早速ですが、まず会の概要についてお聞かせ下さい。
松本:
うちのセミナーは、「ボランティアの人が集まっている」のではなくて「生徒さんが集まっている」んで、いわゆる「森林ボランティア団体」というのとは少し感じが違うかも知れませんね。主催・企画側は、橋詰さんと私と家内の3人だけです。あとはみんな生徒さん。
田村:
学校的なスタイルな訳ですね。
松本:
「森林大学」がもともとのコンセプトなんですわ。「営みとの場としての森林」といいますか、林業を都会の人に知ってもらうということですね。林業体験と、それを通じて環境と自然を学ぶといった感じですね。
田村:
12月のプレワークショップでは、1年間通じての緻密なプログラムを紹介されていましたが。
松本:
育林についての授業を1年間で網羅するように組んでいます。間伐、地拵え、主伐、植林、下刈り、枝打ち...1年で辞める人もいれば、ずっと続ける人もいますね。初めてから丸5年になりますけど、第1期生がまだ6人参加してくれてます。平成14年度は20人くらい募集しました。
田村:
来られている方はだいたいどんなところから来られてるんでしょうか?
松本:
ほとんど京都市内ですね。滋賀県の方の4人くらいいらしたかな。あと府内から数人、島本町の方もおられましたね。
田村:
年齢的にはどんな感じですか?
松本:
去年は10代の人がいたんですけどね、府大の学生さんで。今年の最年少は20代ですね。上は、あのー橋詰さんも相当上の方なんですけど(笑)、橋詰さん除いても65位の方がいますんで、結構幅はありますね。多いのは30代後半から40代くらいですね。
下村:
ファミリー層ですね。ご家族で参加される方も多いんじゃないですか?
松本:
ええ、ご夫婦で参加されてる方が3組くらいおられますね。イベントなんかの時には家族連れで見える方も多いです。でも基本的には作業との時はお子さまお断りということにしています。やっぱり危ないですから。
田村:
なるほど。男女比的にはどうでしょう?
松本:
女性の方は2/5くらい。結構多いですね。女性の方はね、枝打ちが得意ですね。高いところに登るのが好きみたい(笑)。30〜40年生くらいのひゅーっとしたヒノキにも登って枝打ってます。
下村:
それぞれの方に得意技というのがあるんですね。
松本:
お料理の先生されている人もいて、山のものをみんなで食べるのも楽しみの1つですね(笑)。
下村:
ここで勉強して、他の団体で活躍されている人とかもおられるんでしょうか。
松本:
ええ、野外活動のリーダーをされている方とか、徳島で林業の仕事に就かれた方もいます。島根大学の演習林の技官になった人もいますね。うちに来ながら他のボランティア団体で活動されている方も結構いますよ。「フォレスターうじ」の方も2人ほど来られています。こんどの17日にも、私も宇治に行くんですよ。
田村:
話は変わりますが、人数の浮動みたいなのは?
松本:
冬は少し減りますね、15〜20人くらいですか。春になると増えて30〜35人くらいになります。こうなると教える方が3人ではおっつかなくなりますね。でも近年は新規の入会者は減ってきたようですね。「みどりの会桃山」の塩本さんのところもそうらしいです。「ほぼ関心のある人は出尽くしたのかなあ...」ていわれてましたけど、そうなのかもしれません。ですから入会金収入は減ってきてますね。
 

■活動の実際

田村:
活動の日はだいたいどんなスケジュールで動かれるんですか?
松本:
そうですねー。私の家に9:30頃に集まって、10:00頃に現地到着、それから橋詰さんの講義があって、12:00くらいまで作業、1:00まで昼食と昼休みですね、それから3:00から3:30くらいまで作業して下山、4:00に解散という感じですね。活動フィールドは私の山なんで、うちからすぐなんです。
下村:
だいたいどのくらいの作業になるんでしょう?
松本:
いやあ、間伐がなかなか進まないですね。最初は補助金申請に必要な10aくらい1年で行くかと思っていたんですけど、なかなか。だいたい1人2本くらいのペースですね。皮をむいてデッキを作ったりしながらなんで。それに目が届かないといけませんから、あんまり急いで作業するわけにもいきません。
田村:
山の使い方というか、エリアの設定みたいなものはあるんでしょうか。
松本:
ええと、25〜40年くらいのスギの林が1haくらいあって、その上にヒノキ、もっと上に行って薪炭林だった雑木林があります。40年くらい放置してますが。ここでは雑木林を50本伐開して針葉樹を植えることもします。
田村:
え、雑木林を切ってですか?
松本:
今、世の中で言われているのとちょっと逆みたいでしょ(笑)。針葉樹は悪者にされてますからね。でもここでは「営みとしての林業を学んでもらう」のが目的ですから、あえてこうしているんです。落葉樹林で高切りをし、萌芽更新を試みている場所も作っています。伐採した落葉樹はシイタケやヒラタケ、ナメコなどのホダ木にします。スギやヒノキを植えるには、腐葉土を除いて心土を出してそこえ植えなくてはなりません。こういう作業からも、土壌菌類のこととかいろんなことが学べるんです。
 

■安全と責任

田村:
山で活動されるにあたって特に留意されている点はどんなところでしょうか?
松本:
やっぱり安全対策、責任の問題ですね。
田村:
安全確保はどこも共通の問題のようですね。いろんなところで話題になりました。
松本:
特にうちのセミナーは、主催側は我々3人なので、全責任がこの3人にかかるわけですから大変です。
下村:
ああ、なるほど。そこは他の森林ボランティア団体と事情が違うかも知れませんね。
松本:
来ていただいている方々は皆さん生徒さんですから、一切責任を負わせないようにしています。教える側の手伝いをしてもらったりとか、そういうことはできるだけ避けるようにしています。
田村:
生徒さんから手伝いたい、なんて声もでるんじゃないですか。
松本:
作業上は年数重ねてる人が初心の方にアドバイスしたり、ということはありますが、常にこちらが見ているようにしています。4期の人が1期の人の指導の責任を負ったりということはないようにしていますね。
しかし、セミナーの会員の中には、セミナーの事業外に自由参加のハイキングなどの企画して下さる方もおられます。あと、文集をまとめるときなんかもそうですね、そういうことはありますけども、それはあくまでセミナーからは一線引いた自由参加企画の話で、フィールドでの作業では、あくまでもこちらがわが責任を負う形にしています。たしかにしんどいですけどねえ。
下村:
となると保険の問題が出てきますよね。
松本:
今使っている保険はボランティア保険で、500円です。これだと動力はダメ、2m以上の高所作業もできないんです。これ以上の保険になると額的にどーんと高くなるのでしんどいですねえ。今年間5000円いただいていて、今年の収支は、ほとんどトントンですから。こういうのは行政の支援がないとしんどいのかなーとか思いますね。
下村:
「京都森林インストラクター会」のインタビューの際に、橋詰さんもおっしゃっていました。
松本:
その辺をサポートできる保険制度がないと、というかないから、「レクリエーションの延長上」のものにどうしてもなりますね。目的・目標を設定して、「何をどれだけすべきか」まではなかなかできません。「とりあえずできるところから明るく」というスタイルになります。
熟練者と初級者のレベルの差がずいぶん出てきているので、14年度からは2クラスにしたいと思っているんですが、熟練者クラスの指導・責任者がいないというのも悩むところです。
田村:
安全確保は大きな課題のようですね。他にはどんな課題がありますか?
松本:
まあ、人間関係には気を遣いますね。みんな山好きな人たちなんで悪い人はいませんが、みなさん個性的で魅力的な方が多いですから(笑)。
 

■連携1:団体間の行き来

田村:
先ほど「フォレスターうじ」さんや、「みどりの会桃山」さんのお名前が出ていました。そういう外とのつながり、付き合いみたいなものはどうなっているんでしょうか。
松本:
「うじ」には今度松林の手入れの講師として伺うことになってます。あとは森林再生支援センターのイベントで上桂での竹の伐採にも参加しましたし、来年度は深泥池の清掃ボランティア活動にも参加します。
田村:
いろいろ幅広く参加されているんですね。
松本:
いやー、そんなことないです。1年間の年間行事の合間を縫ってですから、なかなか他のところに出向くのは難しいですねえ。14年度はもっと外に出たいとは思ってるんですけど、一ヶ月にセミナーの準備も入れて2日半〜3日かかっていますから。

田村・下村:

うわー、3日ですか。大変なんですね。
松本:
物理的に難しいですよね。
橋詰さんは新年度から「親子教室」をやりたい、とおっしゃってるんですけど、ちょっと大変かなあと。個人的に参加していたブータンでの植林活動もあんまり出来ていませんし、ほんとハードなんですよ(笑)。
 

■連携2:山の技術を都市に

下村:
えー。私の仲間内の会で「都市から林業を考える」勉強会というのがありまして、そこで、都市内の公園林などを管理して行くには、造園建設業の技術ではなくて、林業の技術を入れていった方が、生態学的にもコスト的にも世の中的にもいいのではないか、なんて話題がでていたことがあったんです。松本さんはこうした山の活動の一方で、平日昼間は街で造園の仕事に携わってらっしゃいますが、両方を見てどう思われますか?
松本:
そうですねえ。林業と造園って考え方が違いますよね。
田村:
どんな風に違うんでしょう?
松本:
えーと、造園屋は剪定はするけど伐採は嫌がりますね。私は林業の感覚を持ってましたから、自然にのびのび生長できるように木を間引くことを考えてしまいますね。私が造園会社に入社して、最初にヒラドツツジを植えた時、こんな風にポーンポーンと離して植えたら怒られましてね、造園ではこうやってくっつけて植えるんですね。今の造園は、植え終わったときが完成形で、その後5年後10年度までは考えないところがありますね。
下村:
「植栽工事完了が完成ではない」と、よく言われるんですけどね。
松本:
林業はもっともっと長い時間のなかで木を育てることを考えますから。
でも、風景をつくるというときには林業の技術だけではできないんじゃないですかねえ。両方の技術のミックスがいるような気がします。
造園といえば、ある処理場の外構の管理に行っているんです。木がものすごい密度で植えてあって、もうこんなひょろひょろのもやしみたいに育ってるんですよ。
下村:
昔の「エコロジー緑化」型の高密度植栽だったんですかね。
松本:
そうかもしれません。これだけの密度で植えると本当は5年くらいで切らないといけなかったんですけど。これが切れないっていうんですわ。何でだと思います。
田村:
何ででしょう?
松本:
造園工事の成果物として台帳に載ってるから、って言うんですよ(笑)。
下村:
ああ、そうか。土木とか造園とかの建設工事の完成品ってそういう扱いになりますよね。
松本:
まあ、台風で大量に倒れたのを機に手を入れて切るようになってきましたけど。「造園」の世界だと、こういう「切るべきでも切れない」場面がありますね。都市とか造園工事でも、林業的な視点を生かすべきところはあるのかもしれませんね。
 

■連携3:受け入れ体制をどうつくる?

田村:
森林ボランティアがいろんな点で期待されているわけですが、これから関わろうとされている方にメッセージはありますか?
松本:
うーん。ボランティアより、受け入れる側の問題というのがあると思いますね。
田村:
といいますと。
松本:
ボランティアというのは誰かのためにしているのではないんだと思うんです。皆さん自分のためにされているんだと思うんですよ。いやこれは悪いこと何じゃなくて、これが一番大切なことなんだと思うんですね。
田村:
他の森林ボランティアの皆さんもそうおっしゃっていますね。
松本:
そういうスタイルで活動していくことが可能になるには、世話好きな人が受け入れ側に必要だということです。事務局というか。
田村:
ああ、松本さんはまさにそういうところにおられるわけですね。
松本:
森林ボランティアが増えてくると、うちのセミナーみたいな、山仕事を教えるところの必要性は一層出てくるんじゃないかと思いますね。しかし事務局は大変ですよ。申請の時とか毎年徹夜ですから(笑)。ですから、こういう仕事の公益性みたいなものが期待されているなら、そういう志のある人に行政からの補助とか、あってもいいんじゃないかと思いますね。
下村:
NPO法人として共通の事務局を立ち上げるとか。
田村:
複数の団体と行政なんかがみんなで持ちあって共同の事務局を設けるとかというのもあるかもしれませんね。
下村:
橋詰さんがおっしゃっていた、資材の貸し出しサービスとか、以前長瀬さん(神戸芸術工科大学)との話のなかで話題になった、申請窓口の代行とかといったサービスもこういうところの仕事になってくるのかも知れませんね。結構マーケットありそうだな。
松本:
うちの生徒さんで、3人のお子さんのお母さんでもう家のことが大変で、という方がいますけど、その人がまた山にきて大変な作業を1日するわけですよ。それで疲れ果ててしまうかというとそうではなくて、「山に来たら元気になって帰れる」と言われるんですよね。収穫物と喜びを持ち帰れることは、街の人が山に関わり続ける大切な動機ですよ。それが、山に来ていろんなストレスが生じるようなことになったら何のこっちゃわかりません。
 

■本ワークショップに向けて

田村:
今日はいろんな話題が出ましたが、本ワークショップではどんなことが話題に上がると思われますか?
松本:
そうですねえ。プレワークショップで「どんな森にしていくべきか」という問いかけがありましたけど、そういう観点は、うちのセミナーにはなかったですね。私は山で「何をどういう風に学んでもらうか」がテーマですから。でもフィールドを持って主体的に活動されている森林ボランティア団体の場合には必要かもしれませんね。語弊があるかもしれませんが、ボランティアの方が好き勝手に山を扱って良いのか、などきちんと議論してはどうでしょうか。
下村:
楽しいことはとても大事、でも楽しければ良い、ではまずい...でも大事な論点ですよね。この辺は山の人、活動に関わる街の人、林業や生態学の専門家など、いろんな人が一緒に考えなくてはいけないところだと思います。
田村・下村:
今日は遅くまでどうもありがとうございました。

林家に生まれながら林業をなりわいとして選択しなかったこと、そこから改めて林業を見直して、今の活動をされているとのお話でした。
いろいろな話題がありましたが、関わる人一人一人にとっての山の体験の大切さというものを改めて考えさせられるインタビューでした。
松本さん、どうもありがとうございました。
 

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